Seicho no genkai o meguru sekai chishikijin 71-nin no shogen
(1973)–Willem Oltmans– Auteursrechtelijk beschermd
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65 ケネス・ボールデイングケネス・E・ボールディング (Kenneth E. Boulding) は一九六七年以来、コロラド州ボウルダーのロラド大学の経済学教授である。また、同大学の行動科学研究所で、一般社会経済動学研究部長もしている。 一九一〇年、イギリスのリバプールの生まれ。オックスフォード大学で博士号を受け、一九三七年にアノリカへ移住、一九六八年には、アメリカ経済学会の会長に就任, 一九七○年以来は贈与経済研究協会の会長をつとめている。 一四冊ほどの著書をあらわしているが、その主なものを次にあげておこう。『近代経済学』 ‘Economic Analysis’ (1941), 『愛と恐怖の経済-贈与の経済学序説』 ‘The Economy of Love and Fear: A Preface to Grants Eco-nomics’ (1973) 「平和の経済学」 ‘Economics of Peace’ (1945) 『経済学者の技能』 (邦訳題名は「経済学-その領域と方法-』) The Skills of the Economist’ (1958), 『経済政策の原理』’ Principles of Economic Policy ‘(1959), 『紛争の一般理論」’ Conflict and Defense ‘(1962), 『軍縮と経済』’ Disarmament and the Economy ‘(1963), 『二十世紀の意味』’ The Meaning of the Twentieth Century ‘(1964), 『社会科学のインパクト』、 ‘The Impact of Social Sciences’ (1966), 」『平和産業と戦争産業』 ‘Peace and the War Industry’ (1970), 『経済的帝国主義』’ Economic Imperialism’ (1972).
狼が来たぞと叫ぶ〔イソップ物語の少年の話から、虚報な流すの意〕のが危険なことは当然として、それでも、ローマ・クラブはほんものの狼だとお叫びになる気はおありですかGa naar eind〔註1〕
『成長の限界』と『ワールド・ダイナミクス』の書評Ga naar eind〔註2〕に書いておきましたが、ローマ・クラブはほんものの狼を見つけだしたんですよ。そいつの名は「フィニチュード (有限) 」といいます。だが、乱暴なごろ合わせをお許しいただくとすれにですね、フォレスター (森の人) | |
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自身さえ、自分がどこまで森の奥深く踏みこんだのやら、それともメドウズ (草原) の方に進んでいるものやら、わかってはいない。問題となるのは、知識というものが社会の動きを決める上で決定的な重要性をもつ要素なのにもかかわらず、知識の未来は予測できない、ということでしょうね。これは、もっとすぐれた方法をもってすれば克服できるといったたぐいの問題ではそもそもない。まさに知識という概念自体に固有の問題です。将来になって知りうることの中味がもしも現在ただ今予想できるとすれば、それは、現在すでにそれを知っているということにほかなりませんか ら、何も先まで待つ必要なんかないわけです。そうはいっても、知識の夫来について、ある程度はあたるかもしれない有用な推測すら不可能だというわけではありません。ただ、その種の予想をたてる場合は、それがはずれてあっと驚く用意を、いつでもしていなくちゃならんということです。これまでになされた予測のあたり具合ときたら、みじめなものです。現在なされている予測にしたって、これまでのものに比べて特にすぐれていると考えてよい理由は、なにもありません。
世界経済のことを、たしか「経済国」エコノムスフエアというふうに呼んでいらっしゃいましたねGa naar eind〔註3〕
地球は、トータルシステムとして研究しなければなりませんが、このシステムに関する知識は、まだたいへん幼稚ですね。この点では、ひょっとすると自然科学の方が社会科学よりも立ち遅れているかもしれません。ひじょうに小さなものやうんと大きなものについては、かなり良くわかっています。それに比べると、地球のように、中くらいの大きさのもののことは、まるでわかっていないのです。氷河時代がどうしてやってきたかということも、大気圏の力学も、わかっていません。海洋のこと もまるでわからないし、生物圏の長期的な動学についても、ほんとにろくにわかっていない。科学としての生態学は、まあ、文化人類学-めずらしい種族についての面白いおはなし!-と似たりよったりというところですね。人間の活動は地球を暖めているのか、それとも冷やす結果になっているのかということさえわからないんですからね。科学、とりわけ自然科学に対する信用がだんだん失われていく危険は、現に出ています。なにしろ自然科学の分野ではたいしてよくわかってもいないことにつ | |
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いて、ありとあらゆる種類のとてつもない発言がなされワソスフニア ハイドロスフエア アトモユフニア バィオスフエているんですから。岩石圏、水 圏、大気圏、生 物圏、社会圏Ga naar margenoot+等々といった地球上のさまざまなシステムは、それぞれある程度の独立性はもっていますが、それらの相互作用の方をどうしてもよく研究してみる必要があります。 均衡という概念に人間精神の構成物であって、現実世界に存在するものではありません。それは、適切に用いるかぎりではひじょうに役に立つ概念ですが、あまりそれにとらわれすぎないようにしなければなりません。地球は、数丁十億年にわたって進化の過程に支配されてきました。その過程は根本的に不均衡的なシステムです。もしも進化が停止するとしたら、大変驚くべきことだというべきでしょう。進化の過程にはまさに成長の限界が存在する-とりわけあるひとつの種についてみた場合、そ ういえます。しかし詩人テニソンが言うような『万物がそをめざし進みゆく、いやばての神ながらの世』を別にすれば、進化そのもののなんらかの限界を心に描くことは困難です。
今世紀後半の経済学に関して、学問としての何らかの問題があるとすれば、それはいったいどのようなことでしょうか。
経済掌の問題点は、本質的に二ュ-トン型の均衡モデル、つまり非常に単純な力学モデルを突破して、社会の真の動態過程に光をあてうるような進化モデルへと発展できないでいるところにあります。もっとも、そのようなことを経済学に求めるのは過大な要求というものかもしれません。現在必要とされているのは、社会動学の一般理論にほかならないからです。マルクスの弁証法はそうした理論の一つの試みですが、私は、あれは根本的に誤ったものだと考えています。結局のところ、社会は進化 に支配されているのであって、弁証法的過程にではありません。私がこれまで書いてきたように、弁証法的過程は、ちょうど、進化の潮流におしよせる嵐のようなものだからです。だからこそ、弁証法的理論は多くの幻想、すなわち誤った意識を生み出し、多くの人間的苦悩を引きおこしてきたのだと思います。私は、人間とは自分の利益に沿った決定を行ないがちだというように広く解釈されるならば、利潤追求経済に特に反対はしません。そして、市場にかわるものとして今日用いられている仕 | |
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組のほとんどのものはひどくつまらないものだと思っています。それらは社会の組織装置として交換よりもむしろ脅迫に頼るものがほとんどだからです。脅迫には道徳的優位性など認められるはずがありません。他方、私たちは、戦争や貧困や疎外といったいやらしいしろものを、なくすことのできるような動的過程をもたらす力をもつ、世界的な社会契約の実現という非常に深刻な問題に直面しています。資本主義も社会主義もそれを実現することはできません。両者ともに、人類の其の問題に 照らしてみれば、時代遅れのしろものとなってしまっているからです。今日では、ひじょうに確固とした社会的思考と社会的発明の時代が必要とされているのです。
フりーマン・ダイソンGa naar eind〔註4〕は銀河系の緑化や、五〇万もの部分品からなる良己増殖椴械、つまり機械自身を造る機械について述ぺています。フオン・ノイマンはその可能性を理論的に証明しましたが、ダイソンは、それが将来の可能性に属する二とだといっています。『この科学の量かな実リ』-アレクサンダー・キング氏はこの種の発展のことをそう呼んでいます がGa naar eind〔註5〕-は、増加する一方である世界の人ロに対し、どのような効果を持ちうるでしょうか。だれもが暇になって働かなくなるのでしようか。
私は技術面のあらゆる予測に対して極度に懐疑的です。そのわけは簡単で、過去のすべての予測の適中率がひじ」うに悪いからです。
社会的な問題の解決を発見するためにコンピュータが将来は大きな補助的役割を演ずるようになるだろうという予測についてはどうですかGa naar eind〔註6〕
コンビュータも技術の一部ですから、あらゆる技術予測のもつ不正確さについての私の言及は、ここでも同様にあてはまります。私はこれまで、コンビユータの影響はさほど大きなものではないと主張してきました。コンビュータは、科学のうちもっとも遅れているものの一つである数学の、便利な代用品の役を果たします。少なくとも紙と鉛筆を使う数学の代わりになります。私は、コンビュータ・モデルから有意義なアイデアが出てくる日をいまだに待ち続けています。つまり、フォレスターGa naar eind〔註7〕のモデルは、デルフィの神託のような意味では有益でしたが、マルサスGa naar eind〔註8〕の中にすでに見出される以上の | |
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アイデァは事実上まったく含まれていないのです。これまでのところコンビュータは、日常生活の面では、銀行の連続的複利計算、飛行機の予約処理などの面で利便をもたらしていますが、他方、読むにたえぬアウトプットを印刷するために何千平方マイルもの森林を破壊してきています。コンピュータは情報を作り出しますが、情報は知識と同じものではありません。実際、私が強調してきたように、普通、知識は情報の秩序だった消去によって得られるのであって、情報の蓄積によってえられ るのではありません。すなわち、情報に含まれる雑音Ga naar margenoot+をろ過し除去することによってえられるのであって、データのたんなる積みあげによってではないのです。コンビュータが必要以上に大量の雑音Ga naar margenoot+をつくりだしていることは、十分ありえます。もし、コンピュータが、人間の学習過程に真に光をあてることができるようになれば、その時こそ、現在それが生み出していると思われるあらゆる外部不経済を上回る価値をもつものになりうることでしょう。
カール・R・ロジャーズGa naar eind〔註9〕は、世界がスキナーGa naar eind〔註10〕流の方向へ向かって動いているようだ、といってなげいていますが。
スキナー。モデルは、鳩にはいいけれども人間にはあまり適しません。それは、鳩の価値システムが遺伝的な成長過程を通じて神経系に刷り込まれるのに対して、人間のそれに私にもスキナー教授にも理解しがたいようなプロセスを経て学習されるものだ、というひじょうに根本的な組違があるためです。私には、スキナー・モデルは経済学とほぼ同程度に単純素朴なものに思えます。そして、生身の人間はとてつもない複雑さをそなえており、それによって理論家の単純性をいつも出しぬいてしま うと確信しています。けれども、単純なモデルを決して軽視してはなりません。それは、かならず何ごとかを教えてくれるからです。そればかりか、単純なモデルの結論をあまりにも文字通りに信じこまないよう注意してさえいれば、それはさらに効果的な教師となってくれるでしょう。
今回の世界の旅で、私は七〇人ほどの文化人や科学者に会う予定ですが、その途中でしばしば、他人の理論や仕事に対する無理解や時には絶対的な軽蔑さえ見うけることがありました。フィリップ・ハンドラー | |
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Ga naar eind〔註11〕博士は、たいていの科学者の間には広汎なコミュニケーション・ギャップがみられるが、「彼らは、自分たちがなにゆえ分断されているかを明らかにすることができないだろう」といいました。コミュニケーションのような単純な同題さえ解決しえないとすると、ますます小さくなっていくこの地球に、いったいどのようにして平和をもたらすことができるのでしょうか。
この偉大な学問の共和国を、個々の学問分野という、たがいの交流がなく、かっ敵対的なナショナリズムの領城に区分けしてしまうことは、人類自体を交流がなく敵対的な国家や宗派に分裂させるのと同じぐらいに嘆かわしいことです。ただし、学問分野や国家や宗派をすべて廃止しなければならないというわけではありません。人間は、大道につくと同時に適当な大きさの小共同体をもち、様々な多様文化を保持することがひじょうに大切だからです。知識の成長は、徳-例えば正直、公平、謙譲と いった-の実践と深い関わりをもっています。おそらく、知識の成長にとっての最大の敵は、七つの大罪のうちでも最も重い罪、高慢でしょうが、残念なことに、学問の共和国もそれを免れるわけにはいきません。実際、知識産業には仲介者が必要なのです。ところが、彼らは、仲介者というものが常にそうであるように、軽蔑されがちです。しかし、この種の人々は専門家相互間のコミニケーションを円滑に進めるための本質的な役割を果たすでしょう。 平和は、個人間の関係にせよ国際関係にせよ、学習なしには達成できません。それはまた.制度、情報、コミュニケーション、知識などのより複雑な形態を築き上げていく方向に向かう進化の過程を必要とします。それは今や、かなり容易に利用することのでぎる人間の潜在的な進化能力の一部をなしています。このことは実際人々に期待を与えてくれます。というのは、潜在的な進化能力というものは、現実化されるという不思議な傾向をもつように思われるからです-どのようにしてかは、ほんとに よくわかりませんが。 |
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