Soren no tachiba. Detanto no hokani michi wa nai (The Sovjet viewpoint. No alternative to detente)
(1983)–Georgi Arbatov, Willem Oltmans– Auteursrechtelijk beschermd
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二六回党大会〔一九八一年二~三月〕や、その後のブレジネフ書記長の数多くの言明、それに一九八二年、ジュネーブでのINF削減交渉に提出されたソ連提案のなかで、具体的に明示されている。 | |
ヨ-ロッバ全域を非核地帯に- ソ連の立場の主要な点はなにか。 A 何よりもまずソ連は、ヨーロッパ全域を非核地帯としたいと考えている。したがって単に中距離ミサイルだけでなく、戦術核兵器もヨーロッパから撤去するよう提案している。ソ連は、西側諸国がこのような抜本的な解決案に応じる用意がない場舎に備え、別の広範な堤案をしている。 ソ連提案によると、双方は一九九〇年までに、中距離核兵器を現在の約一千基から三百基に削減することになる。撤去する兵器の大部分は廃棄することとし、ソ連側で廃棄しない分は、西ヨーロッパに届かないようウラル山脈の東側に移転する。十分な検証手続きも確立する。INF交渉での前進を容易にするため、ソ連はSS20の配備を中止し、配備制限の合意に先立って中距離弾道弾(IRBM)の一部撤去を開始した。 残念ながらアメリカは、レーガソ大統領が一九八一年一一月に提案したいわゆる「ゼロ・オプショソ」に固執している。このゼロ・才ブションは、何ともおかしな提案である。ソ連側はゼロにして、NATO側には新しい選択の幅を与えるというわけだ。レーガン提案によると、ソ連は中距離の新型ミサイルも旧型ミサイルも全部廃棄するが、NATOは新規配備をしないだけで、すでに配備されている核戦力は、英仏両国の核戦力の飛行機もミサイルも含め、そのまま手つかずで残すことになる。 またアメリカが、特にヨーロッパ周辺に海上発射巡航ミサイルを配備するのを自制するのかどうかも、まったくはっきりしない。さらにレーガソ提案は、ソ連がヨーロッパだけでなく極東に配備する | |
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中距離ミサイルも、一方的に削減するよう要求している。 一方では、アメリカのミサイル配備の期限が日一日と近づき、時間切れが迫りつつある。アメリカがジュネーブでの交渉を、差し迫った危険な軍拡競争を防止する合意をまとめるためというよりは、西ヨーロッパの反核運動の政治力の高まりを冷却化させる方策として利用しようとしていることは明らかだ。 ソ連が一九八一年初め、中距離ミサイルの配備凍結を提案したのに対し、NATOがこれを拒否したのは意味がわからない。そもそもNATOは、ソ連がすでに配備を開始していたSS20を恐れ、これに対抗してアメリカの新型ミサイルを八三年以降、配備する計画を決定した。ソ連は一九八一年初め、INF問題について、交渉中は双方とも新ミサイルの配傭自粛を提案した。これは事実上、ソ連の一方的な配備自粛措置であワ、ソ連だけが影響を受ける提案だった。 それでは、なぜNATOはこの凍結提案を拒否したのか。この疑問には一つの答えしか見出せなない。つまりアメリカは、この凍結が実施されれば、ヨーロッパの緊張が緩和され、NATO再武装の妨げになることを恐れ、凍結は邪魔になると考えているということである。 | |
戦略理論家の創造的空論- そういうわけでアメリカを非難しているのか。 A アメリカだけを非難しているのではない。いわゆる「NATO共同体」に属する西ヨーロッパ諸国も非常に積極的な役割を果たした。米下院のスタッフで軍事、政治問題の専門家であるフレッド・カブランは、ヨーロッパにミサイルを配備するとのNATO決定の端緒を探った結果、「ヨ-戸ッパ・アメリカ合同研究会」という影響力のある少数の小さな専門家グループにたどりついた。 | |
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このグループは、アメリカのタカ派として知られるアルバート・ウォールステッターが委員長を務め、イギリスの国際戦略研究所と緊密な関係にあった西ドイツ、イギリス、ノルウェーなどNATO諸国のコンサルタント専門家も参加していた。このグループがまず当時のシュミット西ドイツ首相を説得し、シュミット首相が一九七七年一〇月にこの問題を提起した。カーター米大統領もすぐにこれに乗ったというわけである(ーューヨーク・タイムズ・マガジン、一九七九年一二月九日、四六、四七、五五ベ ージ。 - そのグルーブはどういう判断に基づいていたのだろうか。新型ミサイルの西ヨーロッバ配備決定を支持する重要な論拠は、西ヨーロッバ諸国に対するアメリカの核の拿が信頼できるかどうかという、陰に陽に投げかけられている疑問だった。米ソの戦略核戦力がほぼ均衡していることからみて、ヨーロッバで戦争が起きた場合、アメリカはソ連に対して戦略兵器を使わないのではないかという疑いである。この疑問には、まったく根拠がなかったといえるのか。 A まず第一に、アメリカの新中距離ミサイルが配備されても、アメリカの核の傘をめぐる状況には何の影響もないであろう。もし、この中距離ミサイル(アメリカのミサイルであることを強調しておきたい)がソ連本土を攻撃したら、ソ連はそのミサイルが発射された国だけでなく、アメリカにも報復攻撃をするだろう。ワイオミング州から発射された場合と同様、アメリカに報復するということだ。 第二に、この疑問は欧州で通常戦争はもちろん、核戦争を戦っても、人類の大量殺戮には発展しないという、まったくばかげた考えから生じている。ここでわれわれはまたもや、アメリカのひじかけ椅子の戦略理論家たちの創造的空論の世界、現実離れし常識を欠いた瑣末主義的戦略論の世界に突き当たるのである。問題なのは、この瑣末主義が単なる頭の体操にとどまっていないことである。西欧 | |
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の核戦力、通常戦力の増強を正当化する根拠として使われているのだ。 とにかく、いったんヨーロリパで戦争を開始すれば、大量破壊をもたらす近代兵器が使われる世界戦争に必ず発展することばだれの目にも明らかだ。この点についていえば、ヨーロッパで戦争が起きても、使用する核兵器は中距離兵器ないし戦術兵器に限定し、戦争を「局地紛争」のワク内にとどめておくことができるという考え方ほど、ばかげたものはないであろう。 - ヨーμッパの人たちは大部分、そういう考え方がばかげていることがよくわかっているのではないか。 A もちろんだ。というのは、ヨーロッパの人たちにとって、このような紛争は、仮に戦術兵器だけを使用する戦争であっても、全面戦争、完全に戦略的な戦争を意味するからだ。ヨーロッパで核兵器が「きわめて限定された」形で使用された場合でも、二千万人が死亡するだろうという試算が、すでに一九六〇年代に出ている。もし、戦争がこの限界を超えて拡大した場合、その可能性のほうがもっと大きいが、一部の専門家によると、死傷者は少なくとも一億人に達するという(アレイン・エントーペ ン、ケネス・スミス共蓍 How Much Is Enough? ニユーヨーク、一九七一年、一二三ベージ)。 | |
「核の敷居」を低める中性子爆弾- ここ数年、ヨーロッパでは中性子爆弾が活発な論議の対象となっている。中性子爆弾は全体的な情勢にどのような影響を及ぼすだろうか。 A 人は殺傷するが建造物などの資産は破壊しないというこの兵器の道徳的側面を別にしても、中性子爆弾,すなわち放射能強化兵器(ERW)に反対する主な論拠は二つある。 一つは、この新型兵器が新たな軍拡競争を意味するからである。もう一つには、「核の敷居」を低 | |
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くする恐れがあるからである。要するに、中性子爆弾開発の背後にある目的は、西ヨーロッパ諸国民に対し、ヨーロッパで戦争が起きた場合、核兵器を使っても、ヨーロッパ諸国とその国民にひどい危険をもたらすことはないということを納得させることである。 - 中性子爆弾の支持論の一つに、これが有効なのは防衛的な目的に使用する場合だけだか ら、というのがあるが。 A 中性子爆弾についてはすでにいろいろ論議されたのに、そのような考え方を今もってくり返す恥知らずの人がいるとは思わなかった。中性子爆弾は、その本来の機能の性質そのものから判断して、ほかのどんな核兵器よりも攻撃的な兵器である。 レーガン大統領が中性子爆弾の大量生産を開始する決定をした背後には、建物が密集し、人口が過密なヨーロッパでも、核戦争は考えられるし、遂行できるという状況を一段と進めようとする明確な意図があった。さらにソ連や全世界に対して、アメリカがヨーロッバでの核戦争も辞さないということを示す意図もあった。 こうした政治的な側面は別として,厳密に技術的な意味でも、中性子爆弾はとても防衛的とはいえない性格の代物である。中性子爆弾は戦車に対して有効であるが、同様に、防衛陣地に対しても有効に使用できる。町の道路を瓦礫で埋めることなく、住民もろとも、その町を防衛していた兵士を全滅させることがでぎる。橋や高速道路や飛行場を破壊することなく、その防衛部隊だけを殺害することもできる。 最後に、中性子爆弾によって生じる放射性降下物は、通常の原子爆弾の半分にすぎないから、攻撃側がある地域を占領しようとする場合には、使いたくてうずうずするような兵器になるかもしれない。 | |
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米将軍たちの発言録- ソ連側が言う「いわゆるソ連の脅威」の問題に話を戻したい。最近アメリカでぱ、ソ連の民間防衛計画について、いろいろと香かれたり話題にのぼったりしている。ソ連の計画は非常に大掛かりで綿密なので、ソ連は核戦争を起こしても「耐えがたいほどの損害」を受けずにすむのではないか、といわれているが。 A アメリカやオランダなどほかの国と同じように、ソ連にも民間防衛計画がある。しかしソ連には、民間防衛によって核戦争が苦痛のないものになるとか、受け入れられるものになるとか、死傷者や被害を耐えられる程度にまで減少させて核戦争の勝利を確実なものにできる、などと考える者は一人もいない。 もしソ連が民間防衛に期待をかけていたら、ABMを観制する条約に合意しただろうか。これらの点については、アメリカの上院議員グループが一九七九年にモスクワを訪問した際、ソ連軍の副参謀総長が詳細に説明した。そのときの会談には私も出席したが、ソ連側が上院議員団に、ソ速もアメリカと同様に軍事費の約○、一%を民間防衛計画に支出している、と説明したことをよく覚えている。 実際問題として、民間防衛に時折熱心になり過ぎるのはむしろアメリカのほうである。一九六〇年代初めがそうであったし、現在も同じ現象が起きている。アメリカ国内を旅行すると、核シェルター(避難所)の表示がよく目につく。ソ連ではそのような表示に一度も出くわしたことがない。 ソ連の軍事的立場からみれば、アメリカで新たな民間防衛ヒステリーが起きるのは、そんなに悪いことではないかもしれない。こうした計画にべソタゴンの資金から膨大な金額を吸い上げて、役に立たないものに費やしてくれるからである。 | |
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ところで、ソ連の民間防衛についてのこけおどしじみた話は現在も広がりつづけている。ジョージ・キーガン少将はこの問題で最も活発に動いている人物の一人である。退役するまで空軍の情報部長だったが、その地位を利用して、自分の想像や作り話を情報活動で入手したデータのようにみせかけた。 - キーガン少将はかつて私に、ソ連政府がアメリカ国民に向けて放った最も危険な宣伝員はあなただ、といったことがある。 A キーガン少将は、危険なだけでなく人を欺く反ソ宜伝の有力な代弁者の一人である。それだけに、そのような評価を聞くと、お世辞と受けとめたくなる。 - ようやくアメリカの将軍たちの問題にたどりついた。アメリカの政治に軍部が果たして いる役割をどう思うか。 A 将軍たちということになれば、キーガン少将とはまったく別の問題だ。まず一口に将軍といっても個性はそれぞれ違う。何人かの将軍については、ソ連は両国が同盟国だった時代からいまだに記憶している。第二次大戦後も、まともな政治的見解を披露している将軍や提督がかなりいる。 一九七〇年代に私は、ジェームズ・ギャピン将軍、ブレント・スコークロフト将軍、ロイヤル・アリソン将軍、ジョージ・ミラー提督、ジーン・ラロック堤督、それにノエル・ゲイ一ラー提督らと話し合ったり、セミナーで同席したりする機会があった。意見が対立した点が多かったのは当然のことだが、私はこの将軍たちに、文字通り深い尊敬の念を抱いている。 たとえば、リチャード・M・エリス将軍〔米戦略空軍司令官〕が「将来に託す最大の希望は.SALTによってまず戦略兵器の制限に合意し、続いて、軍事力の相互削減を実現することである。SALT合意の代替案といったものは受け入れられない」(アームズ・コントロール・ツデー、第八巻九号、一九七八年一〇月、五、へージ)と述べている文献を目にしたが、こういう発言に対しては、ただ称賛するばか | |
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りである。またマクスウニル・テイラー将軍、マシュー・リッジウニイ将軍らの見解の一部も注目に値すると思う。 しかし、アメリカの将軍たちを一つの集団として論議し、軍首脳全体が政治に果たしている役割を位置づけようとするなら、将軍たちはアメリカの軍産複合体の重要な構成要素になっているといわざるをえない。軍事独裁国は別として、アメリカのように将軍や提督が重要な役割を演じ、世論や議会や政府にこれほど大きな影響を及ぼしている国を、ほかに思い浮かべることができない。アメリカが歴史上、それほど多くの大戦争を実際に戦ったわけではないことを考えると、このような伝統がある ことはなおさら驚きである。 その理由の一つは、冷戦時代に典型的に表われたように、アメリカの外交政策が圧倒的に軍事的傾向を帯びていたことにあると思う。したがって一九六〇年代末以来、冷戦が緩和するにつれて国防総省や将軍たちへの信頼が弱まってきたことは不思議ではない。特にべトナム戦争の結果、戦争や平和、国家安全保障といった事柄についての将軍たちの判断に対して一般国民の疑問が強まった。 アメリカ国民は、戦争が将軍どもに任せきりにはできない一大事であるという民衆の知恵を再び思い出すようになった。しかしアメリカはこのところ、新しい軍国化の時代に入っており、状況はまたまた変化するかもしれない。 | |
軍事専門家の危険な役割- ではソ連の将軍たちについてはどうか。A 私はソ連の将軍たちを大いに尊敬している。彼らは、本当にひどい戦争がどういうものかをよく 知っている。 | |
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- あなたの見解によれば、アメリカの将軍だけでなく、「ひじ掛け椅子の戦略理論家」とあなたが名付ける民間の軍事専門家もやはり危険な役割を演じているように思えるが。 A ぞういう見方をしているのは私だけではない。この戦略理論家が軍拡競争、アメリカの軍事思想をこれほど危険な方向へ発展させるのに貢献したことは疑いない。どういう貢献かについては、こうした戦略理論家の一人であるハーマン・カーンが「われわれは、核戦争をもっと理にかなったものとしたい」〔P・ディクソンThink Tanks ニューヨーク、一九七一年、一〇六べージ)と述べていることが、その本質をきわめて鮮やかに浮かび上がらせている。 - そういう民間専門家の代表的人物の名前を挙げてほしい。 A 名前をあげることはできるが、私は挙げたくない。この専門家たちは、今では政府に入っている人も多い。彼らが悔い改めて考え方を変え、何かためになることをして、過去の償いをしたいと考えたら、どうなるか。こういうことは、これまでにも起きたことがあるし、現にそうした人物が政府部内にたくさんいる。それに、私は名前を挙げることによって彼らの宣伝をしたくない。 - しかし、これは批判するためであって、宣伝にはならないだろう。 A その点はどうでもよい。アメリカではどんな理由でも、名前が出て知名度が高まるのはよいことだとされていると聞いた。唯一の例外は、死亡記事だそうだ。軍事専門家のことといえば、別のグループのことを指摘したい。一九七〇年代の初めに、軍事問題、軍備問題の有力専門家からなるグル-プがアメリカに出現した。このグループは、軍拡競争を抑制し、戦争の脅威を減少させるべきだという立場から、公然と論陣を張りはじめた。よく聞いてほしいが、この人たちは軍事専門家という資格で発 言した。この点が特に重要である。 というのは、これまでにも同じような立場を支持する人たちがいたが、日頃尊敬されてはいても、 | |
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軍事上の技術、戦略、政策などの分野では事実上まったくの素人で、これらの分野で最も信頼できる専門家とされる人たちから反論されてしまったいきさつがあるからだ。 専門的な学識の点で非の打ちどころのない人が支持論を展開してくれたから、この常識的な主張がさらに信頼性を高めたのは、至極当然である。 このグループには、大統領の科学技術担当顧問だったジョージ・キスチャコウスキーとジェローム・ウィーズナー、国防総省のハーバート・ヨークとジャソ・ローダル、CIAのハーバート・スコービルとアーサー・コックス、軍備管理軍縮局のジョージ・ラスジェンズ、それにウォルフガソグ・バノフスキー、リチャード・ガーウィソ、バーナード・フェルド、ポール・ドーティらの著名な科学者が加わっていた。 - ァメリカの海軍の最も著名な幹部の一人で、ニクソン政権時代の海軍作戦部長、エルモ・R・ズムワルト提督は、ソ連のゴルシコフ提督が驚くほど短期間にソ連海軍を増強した事実を、私に強く印象づけたことがある。潜水艦を例にとれば、ゴルッコフ提督が潜水艦を多数建造した結果、ソ連海軍の潜水艦はいまや米海軍の三倍にもなっている。 A 最近、アメリカの有名な専門家、ウィリアム・カウフマソが、この不釣り合いについて分析しているのを読んだ。 彼はまず、ソ連の潜水艦は大部分が年代物のディーゼル推進式であり、四艦隊に配分されているが、そのうち黒海、バルチヅク両艦隊は、地理的にいってアメリカの海上交通路を脅かすことができないと指摘している。そして残る二艦隊もアメリカの海上交麺路に到達するには、敵艦が待ち受けているかもしれない、狭くて危険な海峡を通過しなければならないと述べ、結論として、潜水艦を数だけで比較するのは「誤りを犯す恐れがぎわめて大きいだけでなく、このような比較分析作業の十分な基 本 | |
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データにさえならない」(ジョゼフ・A・ベックマン編 Setting National Priorities: Agenda for the 1980s ワシントン、ブルワキソグズ研究所、一九八〇年、二八六ベージ)と指摘している。 一つ付け加えるなら、アメリカの同盟国の海軍力を計算に入れなくても、アメリカ晦軍はこれまで世界最強であったし、現在も最強であると私は確信している。 | |
インド洋がなぜ心配の種なのかーしかし、ソ連は海軍力を増強するために、非常な努力を払ったと考えている人が西側には多い。 A ソ連の海軍力が増強されたことば間違いない。しかし、ソ連の海軍力をある時点の水準、たとえば第二次大戦直後の水準にとどめておくべきだったという特別な理由があるだろうか。そのうえソ連の海軍力増強の背景には、侵略的意図はもちろん、邪心もまったくない。 ソ連は長い海岸線を防衛しなければならない。ソ連にとって海岸線の防衛はますます至上命令になっているが、それはソ連と対決する海軍力、とりわけアメリカの海軍が大型空母の機動部隊や多数の海兵隊部隊、上陸用艦艇などで構成され、明らかに攻撃的性格を帯びているからである。 海軍力のこれらの分野で、アメリカはソ連に対してかなりの優位を維持しているし、その一部については圧倒的な優位に立っている。アメリカは、こうした海軍力の大部分をソ速の海岸近くに配備しているのである。 ーしかし、ソ連灘軍とその潜水艦も攻撃能力を持っている。特にソ連海軍は、西側諸国に とって死活的に重要な交通路を切断することができる。 A 交通路を切断する能力についていえば、それがあるからといって必ずしも攻撃的意図があること | |
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にはならない。防衛の一部ということもある。 私が理解する限り、NATO諸国は戦争が起きた場合、アメリカからの補給物資は大西洋を渡って輸送されると考えている。だとするなら。ソ連やワルシャワ条約機構が、こうした補給計画への対抗措置を事前に検討するのは当然ではないか。ソ連からみた場合、戦争を仕掛けるのは西側しかないから、ソ連がこのような対抗措置を講じるのは純粋に防衛的なのである。 - インド洋についてはどうか。 A 交通路という点からいうなら、インド洋はソ連の東部と西部を結ぶ唯一の頼りになるルートであり、アメリカにとってのパナマ運河に劣らず、ソ連にとって重要なことを理解してほしい。インド洋はソ連の死活的な交通路であり、その安全保障の確保をソ連は強く望んでいる。 - しかし、そうであれば、西ヨ-ロッパ、アメリカ、日本がベルシャ湾岸諸国から輸入する石油はインド洋を通って輸送されるので、西側にとって死活的に重要なこの交通路に危険が生じるのではないか。 A そういう西側の懸念を何度となく耳にしたが、私は依然として、西側諸国が実際に何を心配しているのか、具体的に思い浮かぺることができない。 もし、全面咳戦争が起きた場合の交通路確保のことを懸念しているのだとしたら、そんな懸念はまさに机上の空論だ。全面核戦争が起ぎれば、交通路の問題はまったく無意味になってしまう。足を切断した人に、靴が合うか合わないかと心配するようなものだ。平和時のことだとすれば、これまた、何を懸念しているのかわからない。ある日突然、ソ連が西側のタンカーを撃沈しはじめるとでも思っているのだろうか。西側が大戦争を起こすと腹を決めさえすれぱ、西側もソ連のタンカーを攻撃する ことはできる。しかし、それにしても西側の懸念の理由がわからない。 | |
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- ソ連にとってもインド洋は重要な補給路だから、ソ連もこの海域に海軍力を展開しなけ ればならないと「方で主張しながら、米海軍の増強が、西側の交通路の安全を強化することになるのを認めないのはなぜなのか。 A西側の交通路の安全についていえば、一般的にいって、石油の供給問題を軍事的手段で解決できるとは思わない。油田やパイプラインを爆撃して炎上させ、破壊するといったように、軍事力を使えばできることもあるのは否定できない。このことは、最近のイラン・イラク戦争が証明した。 しかし、軍事力で石油が生産されるだろうか。答えはノーだ。中東、ぺルシャ湾岸諸国からの石油の継続的な供給を保障する唯一の道は、この地域に平和を実現し、この地域の国々の内政に外部から干渉することを認めず、これらの諸国と公正で対等な関係を樹立することである。 あなたの質問のなかの、インド洋のソ連海軍力についての部分についていえば、私の先の発言は、インド洋におけるソ連を含むどんな外国軍の存在も正当化するものではないので、誤解しないでほしい。ソ連はインド洋における外国軍の存在を最も厳しく規制することに賛成である。この問題についてはアメリカと具体的な交渉をしたが、結局はアメリカの事情でその後、凍結されてしまった。 一九八〇年=一月にブレジネフ書記長は、ペルシャ湾岸地域の非軍事化について具体的な新提案を示した。この提案には、この地域での外国基地の撤廃、核兵器の配備禁止、通商などを目的とする交通路に対する干渉禁止が含まれている。もし西側が本気で、石油供給と海上交通の確保を懸念しているのなら、この提案にもっと積極的な反応を示していたはずだ。 ソ連は、海上での軍拡競争を禁止する問題について、もっと包括的な提案もしている。そのなかには、自国の領海以外に海軍力を恒久的に配備することを禁止する項目も含まれている。もし西側が、この種の問題や軍拡競争に終止符を打つための話し合いで、ソ連を信頼できる相手ではないと思って | |
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いるのなら、「ソ連の脅威」を大宣伝するより、ソ連の真意を試してみてはどうか。 |
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